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横浜地方裁判所 昭和35年(ソ)9号 決定

申立人 中野仁

主文

本件を川崎簡易裁判所へ移送する。

理由

本件申立理由の要旨は、川崎簡易裁判所は、申立人が川崎市生田二千三百七十七番地に転入しながら、正当な理由がないのに住民登録法所定の期間内にその届出をしなかつたものとして申立人を過料金二百円に処する旨の決定をなした。けれども、申立人は昭和三十四年五月三十一日までは東京都中野区打越町二十五番地に居住していたが、その後は勤務先の同都荒川区町屋一の九の二株式会社白鳩の寮(横浜市鶴見区鶴屋町千二百九十三番地の同会社鶴見工場内)に移転し、本件発生の前後を通じ川崎市生田に住所を定めたことはないのみならず、右裁判所は申立人の陳述を聴かずに申立人を右処分に付したのであるからこれが取消を求めるというにある。

よつて、按ずるに裁判所が過料の裁判を為すに当り、相当と認めるときは当事者の陳述を聴かないで之を為しうることは非訟事件手続法第二百八条の二第一項の規定により明かである。けれどもこの場合において当事者に異議があるときは右異議により右裁判は失効し、裁判所は同条第三項により当事者の陳述を聴いた上更に裁判をしなければならない。

ところが、本件記録によれば、原裁判所は昭和三十五年六月六日付申立人に対し過料金二百円に処する旨の裁判を為し、右裁判は同年七月五日申立人に送達されたことが明かであるが本件記録中の昭和三十四年十二月十八日付申立人名義の陳述書によつては、原裁判所が申立人の陳述を聴いたものと認めることはできないし、他には之を認めるに足りる資料がない。

したがつて、本件は申立人に異議があるときは原裁判所において申立人の陳述を聴いて更に裁判を為す場合に該当するところ、申立人は昭和三十五年七月十二日付原裁判所宛抗告(異議申立)書を提出したが、本件においては右書面は原裁判所に対する異議申立と解するのが相当である。

よつて本件は申立人の陳述をきいた上更に裁判を為さしめるためその管轄裁判所たる川崎簡易裁判所へ移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松尾巖 三和田大士 浅香恒久)

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